やっぱり語りたいフォークダンスDE成子坂~改めて後追いの立場から語る魅力
今日は桶田敬太郎の命日であるとともに天国でフォークダンスDE成子坂が再結成した日だ。
あるいは二人とも冷たい奴と書いてになった日?
村田渚の命日にも記事を書いたが改めてコンビの魅力を語りたい。
何を隠そう私がtheLetterを始めた理由の半分はフォークダンスDE成子坂について記事を書きたかったらだ。
しかし愛が強すぎていつまでたっても書き始められないように思えて今回二人が亡くなった11月に記すことにした。
何だかコンビを出しにして私の価値観や思想を伝える手段にしてしまいそうでもあり正直怖い。
だが書きたい気持ちが勝ってしまった。
(※このコンビは略称が4種類存在しますが最も短い「成子」で記事を進めていきます)
前回の記事で『お笑い実力刃』の特集でハマったと書いた。
その前から一応コンビの存在は知っていた。
村田が2006年に急死しスポーツ新聞で記事になっているのをワイドショーで紹介されていたことでコンビの存在を知った。
知らない人でも若くして亡くなる悲惨さと不思議なコンビ名にうまく説明できない気持ちになったのを覚えている。
その後、爆笑問題と同時期に活躍し実力を認めていたことを何かで知った。
何年かして渋谷のTSUTAYAのお笑いコーナーにまだVHSもあった頃(他にはジャリズムがあったような記憶がある)、やたら沢山ビデオがあるなと感じた。
そう5回連続の定期単独ライブシリーズ『自縛』である。
また何かきっかけがあってYouTubeでコントを観た覚えがある。
それが『GAHAHAキング決定戦』でやったこの前の村田の命日に何故か観た「死刑執行」である。
その時はピンとこなかった。
その数年前から『爆笑レッドカーペット』と『ザ・イロモネア』で芸人のネタにかなり興味を持ち始めて、私の中で完全に趣味を超えて習慣といっていい存在にお笑いがなっていた。
お笑いという文化に興味を持ち始めて、お笑いの歴史や芸人やネタの批評本なども読み始めて、ドリフターズ以外にも今も存命で現役の芸人含めて昔のお笑いにも興味を持ち始めた。
そんなときに下北沢の古本屋でワニブックスからの本『GAG!GAG!!GAG!!!』を手に入れる。
1994年半ばの日本のお笑いの記録として非常に力作であるムックだ。
その特集の一つに『GAHAHAキング決定戦』がある。
成子の凄さとして紹介される10週勝ち抜きを達成して初代の爆笑問題に次ぐ2代目キングになった番組である。
刊行時は三代目キングのますだおかだがまだ10週を勝ちぬいていない。
出場芸人の紹介と戦績があるとともに初代・二代目キングのネタの台本の一部が掲載されている。
この時の成子のネタがとてもつまらなく私は感じてしまったのだ。
ネタは最後のテレビ出演であり後にピンや漫才コンビ鼻エンジンとしても出演する村田とは違い、桶田にとって唯一の出演となった『爆笑オンエアバトル』でも演じてオンエアされた『絵描き(迷子) 』だった。
このコンビの前評判というか、イメージや評価される理由としてシュールで新しいと聞いていたので、Aマッソや真空ジェシカのネタを観たときのようなセンスがあって独特な尖りの笑いから共感性羞恥(※例えとしてこのコンビ2組を上げましたがとにかく低い評価を下したいわけではありません。)が芽生えてしまった。
その後、桶田がポッドキャストを始めたと知った。
すっかり表舞台から姿を消したと思っていたので少し驚いたが、興味のあるコンビではなかったのでその頃は聴いていなかった。
そして2020年2月にネットニュースで桶田が亡くなったことを知る。
コンビが二人とも亡くなってしまうことに驚いたが、相変わらず興味はないままであった。
ある日withnewsでこの記事を読んだ。
筆者は『志村けん論』を書いたライターであり、本として形になる前のインタビュー連載や記事から丁寧で読み応えがあり面白かった。
なのでこの記事も読んだが、コンビは売れず悲劇的な結末に終わったという印象にとどまり、彼らのネタに興味はわかなかった。
ソニー・ミュージック・アーティスツ所属の芸人チャーミングじろうのTwitterにあげたバイきんぐ小峠英二と村田の関係を描いた漫画も読んだ。
それなりに感動したがやはりそれ以上の興味はわかなかった。
2021年のある日『実力刃』で特集されると知り、随分思い切ったことをするなと思いつつ、当たりの回もあるので何気なく録画予約とリアルタイム視聴をした。
裏の『水曜日のダウンタウン』のドッキリの『素敵に帯らいふ』は諦めることにした。
笑った。そして驚いた。
貴重なアーカイブから綺麗な音質・画質でいいものを一部編集も行ってという点はあったが、こんなにも面白いコントをやっていて、リアルタイムで知らない人間を純粋に笑わすことが出来るコンビが存在したことに驚いた。
確かにシュール、センスの凄さも感じるのだが、様々な芸人たちが寄せてくれたコメントからもあるように当時まだ浅い芸歴と若さで高い技術を持っていた事と、二人の演者やキャラクターとしての魅力もとても感じられた。
そしてメディアへの露出も早く、周りの芸人にも大きな影響や脅威を与えていたこと。
このコンビに対する興味が一気にわいてきた。
特に桶田は一体何者だったのか気になった。
そこからはポッドキャストと彼らの出ている動画にずっぽりハマっていった。
今観ても新しいという意見があるが、彼らのコントにはドリフターズやコント55号のようにフリとこなしやノリボケ・ノリツッコミも結構あるように思う。
桶田の真顔と間をはずすところから何だか全てがシュールに見えたのだろうか。
個人的には不器用な人や変な人を訂正や罵倒する形ではなく、何で?と思わせる堂々とした上の立場の人の桶田を下の立場(子供、弟、息子、生徒、客)の村田がツッコむ形のネタが多いので、羞恥や不快感が起きにくい。
細かいところを見たら今の基準や価値願で駄目なところは勿論あるのだろうが、ダウンタウンの神経質さ不気味さやシティボーイズの演劇やサブカルチャーの流れとは違う、無邪気なシュール・不条理さはとても貴重で有難い。
本当にダサく古く見えないので凄い。
台本だけ読んだらつまらないと思っていた『絵描き(迷子)』が二人の間や声の強弱でこんなに面白くなるのかと特集で見て驚いた。
スケッチブックの絵の下りが今のピン芸人のやるフリップの視覚的・大喜利の面白さがあって現代的に思えるし、その前の台詞のやりとりもとても面白かった。
正直、村田のツッコミにかなり助けられている場面もある。
事実、村田の技術・センスを信用していたから、その場でのアドリブも含めてボケを放っていたのだという。
桶田はポッドキャストにてもう少し笑いがとれる見た目でありたかったことや演者としての技術の足りなさ(自分は芸人だと思っていないとも)を語っていたが、私は背の高いシュッとした男が照れずにさも当たり前のようにいい声で言うから、一瞬流しそうになる細かい違和感も逃さず村田がツッコんで面白さに変えるというのが成り立つのだと思う。
ますだおかだ増田英彦は『実力刃』で「コントだけどあんまり動いている印象がない。言葉のキャッチボール。間にサンパチマイク置いたら漫才として成立するのかもしれない。」と言っていた。
確かに『彼女のお兄さん』や『お見合い』といったネタに至っては、使っている小道具は実質二人が座るパイプ椅子のみなのでひょっとしたら一部の設定や構成を変えただけで漫才に転用も出来るのかもしれない。
『ドラえもん』『(覆面レスラーの父)』や『彼女のお兄さん』などの発想や設定で見せるネタや、単独ライブの実験的だったり大がかりなネタも魅力的なのだが、ネタ番組やライブ・営業で多く行ったパターンのネタが本当にコンビのテクニックが凄くて驚く。
コンビの掛け合いで起こすグルーヴが本当に面白くて心地いいのだ。
特に私は村田のツッコミがあることで成立する、桶田の受け入れそうになる・スルーしそうになって一瞬間が空くボケが本当に好きだ。
桶田自身が考えオチと説明しており、自分でも新しいことをやったという自覚があるという。
小泉進次郎があのシュッとした見た目で大真面目に当たり前のことやそのまんまのことしか言わなくて小泉進次郎構文とネタにされているが、村田のツッコミがあればそれはもうほぼ成子のコントとして成立するのではないか。
現に『刑務所』のコントで刑期が5年という下りを村田から聞かされたときに桶田は「お前な5年でもな。1年を1日として考えてみろ。たったの5日やないか」というボケがあった。
本当に小泉なら言いそうだし、似たようなことを言いそうな自己啓発のセミナーがありそうだ。
それでもフレーズは考えられても面白く転じさせるには技術とキャラクターが必要だ。
同じ『GAHAHA』『ボキャブラ天国』に出ていたくりぃむしちゅー(海砂利水魚)にも考えオチの笑いを頻繁に上手に行う印象があったのだが、『実力刃』で有田哲平が「(ツッコミで)ポカンとしたボケも分かりやすくしてくれる。」と語っており本当に当時の芸人たちにとって一目おかれる存在だったのだなと感じた。
ポッドキャストではZ-BEAM(俳優の阪田マサノブが過去に組んでいたコンビ)と同じホリプロの先輩のバカルディ(さまぁ~ず)の影響を受けてと言っていたが、村田の鋭いツッコミで分かりやすくなりグルーヴ感も生まれた。
何せ逆に三村マサカズが村田に影響を受けたくらいだ。
私が成子で最も好きなコントは『取り調べ』である。
基本的な構成・流れの面白さはもちろんあるのだが、本当に二人のリズム・テンポ・間が絶妙だし、ちょっとでも外したら面白くなくなると思う。
なにより考えオチや進次郎構文的なのが存分に堪能できるのだ。
ちょっとシリアスになって間が少し空いての村田の「そいつ呼べよー!!!!!」や少し笑いながらの「特にが……、お父さんちょっとしかいないんですか?」は本当に大爆笑する。
成子のコントを初めて見たとき村田は大きい声でつっこんでいるだけと思っていたが、呆れ・怒り・例え・不快・恥じらい・笑いながらなど色んなパターンで緩急自在にツッコめる芸人なのだ。
死んだ人に励まされる。勇気付けられる。
ましてや自分のことを知らない人にまで。
さらにそれが時代の感覚や流れに左右されて急にまったく別の評価や扱いまで受けてしまう〝お笑い〞というひとつの感情が職業になってしまう芸人なら尚更凄い。
時代をこえて私も含めた後追いの人まで笑わしてくれる。
本当に桶田敬太郎と村田渚は凄い。
参考資料
『お笑い実力刃』テレビ朝日2021年12月22日
『自吐』『企画回:《ネタについて話す回…のはず!》』 2019年1月1日
『自吐』『第12回:特別版 ~皆々からの質問・疑問にコタエル回~《part4》』2017年2月11日
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